紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会による第4次評価報告書の主な内容

1. 地球温暖化の原因は、人間活動による炭酸ガスなどの温暖化ガス排出のためであるという可能性が90%を超える高い確率で言える。

2. 21世紀末までに地球の平均気温は、化石燃料に依存した高い経済成長を遂げれば、20世紀末と比べて
約4℃(2.4〜6.4℃)高くなる。一方、省資源で環境に配慮した循環型社会になれば、約1.8℃(1.1〜2.9℃)の上昇にとどまる。この予測レンジ1.1〜6.4℃のうち、実際に起こる確率が高いのは、1.8〜4℃である。

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過去10年(1996年〜2005年)の世界の平均気温は0.74℃上昇し、第3次報告書の0.64℃(1901年〜2000年)よりも高い値となった。

4. 海面上昇は、20世紀の100年間で約17cm上昇し、21世紀末までに更に18〜59cm上昇すると予測される。

5. 北極海の海氷の縮小は今後も続き、今世紀後半には夏に北極海の海氷がほぼ消滅し、ホッキョクグマにも悪影響が及ぶ。

6. 地域的には、高緯度地方ほど気温上昇の幅が大きく、降水量も増える。グリーンランドや南極では氷床が溶 け、海面上昇を助長する。シベリアやカナダでは永久凍土が減少する。日本付近では、強力な台風が発生し、集中豪雨が起きやすくなる。その他、南欧、ブラジル、米国西部などで乾燥日が増加するなど地域ごとに異なる影響が生じる。

7. 増加した炭酸ガスが海水に溶け込むことによって、海水が酸性化しサンゴの生育に悪影響を及ぼす可能性がある。

 IPCC第1作業部会第4次評価報告書のとりまとめ原文。

 関係機関による第4次評価報告書のホームページ掲載記事
    環境省(第4次評価報告書の報道発表)
    気象庁(第4次評価報告書の暫定訳)
    独立行政法人 農業環境技術研究所 (解説)


 第4次評価報告書の内容をみた感想

 地球温暖化が、京都議定書の発効にも関わらず着実に進行していることが確認された。さらに、100年後には第3次報告書の予測を上回って温暖化が加速されることが示された。今後、この報告書は、世界一の炭酸ガス排出国である米国に対し、国際的な温暖化防止の枠組みへの参加を働きかけるのに役立つだろう。
 
 京都議定書の締結に重要な役割を果たし、炭酸ガス排出量を基準年(1990年)と比べ6%削減すると約束した日本ですら、削減どころか2005年時点で排出量を大幅に増加(約8%増)させている状況にある。また、巨大な人口を抱える中国、インドなどが急速な経済成長を遂げつつあり、1人当たりの排出量も急増していくことが予想される。さらに、今世紀は世界的な人口爆発(毎年約1億人の増加)という要因も抱えている。こうした状況をみると、世界的な温暖化ガス排出の圧力は非常に強いものがあると考えざるを得ない。

 今回の報告書で、海面上昇による陸地の減少とそれに伴う植生の減少(炭酸ガス吸収の減少)、炭酸ガスが大量に溶解する海の酸性化とそれに伴うサンゴへの悪影響による炭酸ガス吸収能力の低下などの温暖化加速要因が述べられている。

 人類による化石燃料の使用に伴う炭酸ガス増加および森林伐採に伴う炭酸ガス吸収量の減少という直接的な影響だけでなく、炭酸ガスやメタンガス濃度の高まり−>地球温暖化−>極地の氷の消失に伴う太陽熱吸収率の上昇、永久凍土の溶解に伴うメタンガスの大量発生、海水温度の上昇に伴う海底のメタンハイドレートの崩壊、森林等の生態系のかく乱−>一層の地球温暖化−>・・・・  という、温暖化スパイラルへの突入が心配される。地球温暖化の急速な進行によって、このスパイラルが人類の制御が効かない不可逆的な状況に陥ることも否定できないのではないかと危惧される。不可逆的な状況に陥るとすれば、そこに至る危険な閾値はどこなのかを明らかにする必要があろう。また、この報告書では主に100年後までのことを論じているが、200年後、300年後にも温暖化が進行していった場合に地球と人類はどうなっていくのであろうか。100年以上先は仮定が多くなり、科学的な予測が不可能なのであろうが、考え得る合理的な仮定を設けてシミュレーションを行いその姿を描くことも、人類により強い警鐘ををならすため必要であろう。

 今回の報告から、紀伊半島への影響を読みとると、気温の上昇とそれに伴う熱中症の増加、台風の大型化、集中豪雨の増加と洪水・土砂崩れの増加、海面上昇に伴う海浜の後退と海抜ゼロ地域への海水の浸入、気温上昇に伴う農作物栽培への影響、山地の植生の消失(ブナなど)とかく乱、動植物への発生の時期と量への影響、水需要の増加、南方系の病害虫や人の疾病の増加などが考えられる。地球温暖化の程度とその時期によるこれらの影響を究明し、対策を検討し、優先順位を付けて実施していくべきであろう。

 紀伊半島への温暖化の影響は、地球上の深刻な影響を受ける他の地域と比べると破滅的ではないと考えられる。しかし、上記のように、地球温暖化を座視すれば、世界各地における気候変動による災害・被害の増加と世界的な食糧難、地球全体の不可逆的な環境悪化に繋がりかねない。地域から、家庭から、また、行政、法人、個人として、省エネ、温暖化ガス排出削減、自然エネルギーの利用、森林保護や植樹、生活様式の転換などの工夫と実践が必要である。

 原子力発電が温暖化ガス対策として考えられるが、紀伊半島は予想される巨大地震の震源域あるいはその近くにあるので、原子力発電所の立地には不適切である。今後、太陽光発電、風力発電、森林資源などの豊富なバイオマス利用など、自然エネルギー利用技術の発展を促進し、その利用を進めていくべきである。(2007.2.8 MM)

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